豊洲市場移転問題にみる、事実から本質を追求する重要性

豊洲市場移転問題にみる、事実から本質を追求する重要性

最近、海外で仕事してて思うのは、日本人は概してディベートが下手な民族だなぁ、と実感する。
理由は、「うわべだけの問題を議論し、事実から得られる本質的な問題をクリアにする意識が低い」からだと思う。
今回は、昨年から揉めにもめた「豊洲市場移転問題」から考察する、事実を分解して本質を追求する重要性についてお伝えする。

事実(Fact)から見た豊洲市場移転問題

2017/12/18 東京都は18日、都と業界団体で構成する「新市場建設協議会」を20日に開くことを明らかにした。
協議会で、やっと豊洲移転が2018/10/11に正式決定となる予定だ。
[毎日新聞:豊洲市場 来年10月11日移転へ]
https://mainichi.jp/articles/20171219/k00/00m/040/106000c
さて、この豊洲問題。東京都以外にお住いの人からすると、問題の本質がいまいち見えずらい問題だったと思う。
そこで、まず今まで起こったことを時系列にまとめてみた。
<豊洲市場関係時系列>

1935(昭和10)年 築地市場開場
1986(昭和61)年1月 東京都が首脳部会議で築地市場の現地再整備を決定
1991(平成3)年~1995(平成7)年 再整備工事に着工するも,以下の問題が顕在化
①工期の遅れ
②整備費の増嵩(再試算で3400億円)
③業界調整の難航(買荷保管所や冷蔵庫の移転等)
1995(平成7)年夏 1995年7月に臨海地区を調査し,8月に初めて豊洲の名が移転候補地の一つとして挙がった
1996(平成8)年4月 東京都卸売市場審議会(第46回)で,現行計画の見直しを行う必要があると答申
「健全な財政計画に基づき,
1. 工期の短縮
2. 建設コストの縮減
3. 基幹市場としての機能を維持していくため,流通環境の変化に対応した効率的で使いやすい市場とする視点から見直しを行う必要がある。」
1996(平成8)年11月 東京都卸売市場整備計画(第6次)策定
→ 現在地での整備を前提。水産物部,青果部に分けて整備(立体配置を改め平面配置に)
1997(平成9)年 築地市場再整備推進協議会で新たな基本計画策定に向けた協議を開始したが,業界から,以下の問題が提起
①施設規模
②水産棟分割工事による営業への影響
③工事の長期化への懸念
1998(平成10)年4月2日 業界6団体連名で,臨海部への移転の可能性について早急かつ具体的な調査・検討の要望書が,中央卸売市場長に対して
提出。
1998(平成10)年6月30日 業界6団体に対し東京都が回答(30日)
「移転の可能性を判断するには,市場業界全体の一致した意思が前提となる」として,年内に文書提出を求めた。
1998(平成10)年8月 都が豊洲の現地調査
1999(平成11)年 業界の意思が一致しなかったため,築地市場再整備推進協議会で,まず再整備案を中心に協議するとともに,並行して,将来の立地のあり方等についても検討。しかし,合意に至らず。
現地再整備案について,以下の問題点が明らかになった。
①工事期間が20年以上必要(少ない工事用空地を活用し,かつ営業を継続しながらのローリング工事)
②建設費用の増大(立体構造,仮設施設の建設等)
営業活動への深刻な影響(交通混雑,駐車場不足,物流動線制約等による顧客離れの懸念)
基幹市場としての機能配備が不十分で,流通変化に対応した新施設の組み入れも困難
(完成後も施設は現有規模を若干上回る程度にとどまり,物流動線や場内混雑の抜本的改善も果たせない)
→ その後,業界委員6名の連名で早期の移転整備の検討に向けて要望
1999(平成11)年9月 石原都知事が築地市場を視察し,「古い,狭い,そして危ない」と発言
1999(平成11)年11月9日 「平成11年2月から再開されていた築地市場再整備推進協議会では,・・・同11月,『現在地再整備』の困難性が確認され、『移転整備へと方向転換すべき』との『検討のとりまとめ』をした。」
→ その後に都から東京ガスらに土地売却を打診
2000(平成12)年10月4日 濵渦副知事が本件担当に(福永副知事から変更)
2001(平成13)年1月25日 東京ガスは既に実施していた土壌汚染調査の結果及び対策工事内容を公表
2001(平成13)年2月21日  成13年度第1回定例会(第一号)にて,石原都知事が「豊洲地区を新しい市場の候補地とし,今後,関係者と本格的な協議
を進めてまいります。」と発言
2001(平成13)年2月21日 濵渦副知事が東京ガス副社長と豊洲移転について条件協議の開始の覚書」を締結。
→ 土壌汚染処理には一切言及なし。
2001(平成13)年7月6日 東京ガス副社長と濵渦副知事「築地市場の豊洲移転に関する東京都と東京ガスとの基本合意」締結。
→ 土壌汚染処理には一切言及なし。
2001(平成13)年12月21日 東京都卸売市場整備計画(第7次)策定
→ 築地市場の豊洲地区への移転を決定
2002(平成14)年7月31日 「豊洲地区開発整備に係る合意」(+細部の「確認」)
→ 汚染土壌対策は,東京ガスが,都の環境確保条例に基づき対応を行う。(従前の地権者が条例に基づき,調査及び必要な土壌汚染処理対策を実施し,措置完了の届出を行う。)
→ 合意書に押印したのは,前川耀男知事本部長(現・練馬区長),高橋信行港湾局長,碇山市場長ら5人の局長など
2003(平成15)年2月 土壌汚染対策法施行
2005(平成17)年5月31日 「豊洲地区用地の土壌処理に関する確認書」締結
→ 東京ガスは,環境確保条例117条に基づく計画を実施
→ 加えて,処理基準を超える操業由来の汚染土壌については,道路の区域の下及びAP+2mより下部に存するものを除き,除去するか又は原位置での浄化等により処理基準以下となる対策を行う
2007(平成19)年4月27日 東京ガスが「汚染拡散防止措置完了届」提出,都(環境局環境改善部)が受理
2008(平成20)年2月 都による土壌汚染詳細調査の開始
2008(平成20)年5月 都のボーリング調査で豊洲市場の予定地の土壌から環境基準の4万3千倍のベンゼンなど高濃度の汚染を検出
2008(平成20)年5月 「平成20年5月頃,比留間市場長が専門家会議の最終提言案を石原知事に説明したが,知事からはコスト削減のために地中にケーソン(空洞のコンクリート製の箱)を埋める案を検討するように指示された」(自己検証報告書)
→ なお,同月30日の定例記者会見で,石原知事は新しい工法について検討を指示した旨,発言。
2008(平成20)年12月 都が技術会議で土壌汚染対策作業をする地下空間の必要性を提言
2011(平成23)年6月 豊洲新市場建設工事の基本設計が完了
→ 地下空間が設けられていた
2011(平成23)年8月 都による土壌汚染対策工事が開始
2014(平成26)年11月 豊洲新市場建設工事の起工式が執り行われ,建設工場に着手
2014(平成26)年11月 技術会議において都による土壌汚染対策工事完了を確認
2016(平成28)年5月 豊洲市場施設の本体工事が完了
2016(平成28)年8月31日 小池知事が,11月7日に予定されていた豊洲市場移転について,延期を表明
2016(平成28)年9月 豊洲市場の建屋に地下空間がある(その部分に盛り土がされていない)ことが判明
2017(H29)年1月 豊洲市場の地下水から環境基準の79倍のベンゼンを検出
2017(H29)年2月28日 小池知事が,都議会で,豊洲市場の建物について「建築基準法に基づく安全性が確認された」と説明
2017(H29)年3月14日 東京都議会の予算特別委員会が14日開かれ、小池知事は土壌汚染が明らかになった築地市場について、土壌がコンクリートで覆われているなどとして「安全安心だと宣言できる」と述べる一方、同じくコンクリートで覆われた豊洲市場については、安全性は確保されているものの、消費者の信頼は得られておらず安心だとは言えないとする認識を示した。
2017(H29)年12月18日 都と業界団体で構成する「新市場建設協議会」を20日に開くことを明らかに。豊洲移転が2018/10/11に正式決定となる予定。

 
こう見ていくと、かなりの長い期間、すったもんだがあることがわかっている。
1991年、実は築地市場は再整備工事をやろうとしたのだ。
その結果、上述の通り3つの問題(①工期の遅れ、②整備費の増嵩(再試算で3400億円)、③業界調整の難航(買荷保管所や冷蔵庫の移転等))にぶつかり、再整備を続けるのが難しくなった。1999年には上述の通り、都は築地再整備をギブアップしているのだ。
その結果、市場移転先を都が調査し、最終的に築地から豊洲に移転することが2001年に決定した。
ところが、2016年、小池都知事は豊洲市場の移転を延期することを発表する。
理由は、「豊洲市場の安全性を考慮」した結果だった。
[「一歩立ち止まって考える」 築地市場移転延期の方針固まる]
https://www.excite.co.jp/News/matome/society/M1472538643263/
 
また、小池都知事は、地下水汚染の有無を調べるモニタリング調査の終了前に開場日が設定されていることを問題視。今月26日の定例会見では「安全を確認し、きっちりとした形で進めるべきだ。日程的にお構いなしに決めてしまうという、これまでの都の対応はいかがなものか」と延期に含みを持たせていた。
小池百合子知事、築地市場の移転延期固める 近く会見で表明- 産経ニュース
さて、この判断は正しいものだったのか?
 

意味のない事実(Fact)の羅列が、誤った印象(impression)につながっていく

この問題に関する時系列の中でいくつかキーワードが出てきているが、その中でもマスコミが垂れ流し、小池都知事が判断材料に使ったのは、
環境基準の○○倍のベンゼン
である。
そもそも、ベンゼンは揮発性の有機化合物(≒炭素のかたまり)で、あまり吸いすぎてしまうと骨髄性白血病の原因になったり発がんのリスクがある。
したがって、国はベンゼンの含有量について厳しい規定を設けている。
環境基本法:

  • 水質汚濁に係る環境基準 0.01 mg/L
  • 地下水の水質汚濁に係る環境基準 0.01 mg/L
  • 土壌汚染に係る環境基準 0.01 mg/L (溶出試験検液濃度)
  • 大気の汚染に係る環境基準 0.003 mg/m3 (年平均値)

土壌汚染対策法:

  • 特定有害物質、土壌溶出基準 0.01 mg/L

但し、この法令で定めた値(環境基準)は、期待値であってしきい値ではない。
つまり、守る必要性はないのだ。
そもそも、環境基本法第16条に、環境基準を以下の様に定めている。

ところが、ここがポイントで、環境基準で定めているベンゼンの含有量は、べらぼうに厳しいのだ。
例えば地下水の場合は、

ものなのだ。
どうだろう?「え?そうなの?」というくらい、目をパチパチさせるレベルである。
つまり、100点満点の値なのである。
加えて、労働環境の基準値、すなわちすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される空気中のベンゼン濃度は、環境基準値の100~1000倍も高い値に設定されている。
ということは、豊洲の地下水から環境基準の79倍のベンゼンが見つかったとしても、誤差の範囲内である。
もっと、重要なのは、
そもそも豊洲の地下水は、
市場では使わない!

という市場設計でも当たり前の話なのである。
こういった、意味もない数値に騙され、踊らされたのがこの豊洲市場移転問題なのだ。
事実(Fact)の本質を追求しなかった結果、「安全はあるが安心はない」というアホな言葉が出てきてしまったのである。
 

さらに意味のない事実(Fact)に踊らされる

実は、小池都知事になってから豊洲市場に問題になったのが、豊洲市場の「地下ピット」である。
本来盛り土をすべきところに、地下空間ができていたのだ。
[豊洲市場の地下ピットは何が問題?]
https://www.kenbiya.com/column/mikao/69/
この問題は、解説するとばかばかしいので、詳しくは上述の時系列をご覧いただきたい笑
一言だけ申し上げると、2008年に都が土壌汚染対策作業のための地下空間を設けた方が良い、と
設計方針の変更を示唆していたのだ。
ただそれだけである。
本来の豊洲市場移転に関して何が問題なのか?本質と全く関係ないただの事実である。

事実(Fact)と印象(impression)を混同する恐ろしさ

さて、この問題で多額の税金とかなりの時間が浪費されたが、それはひとえに、

ことにある。
それは、なぜかというと、上述した環境基準のように数値の意味を正しく理解していなかったことにある。
特に、事実(Fact)を誤った角度から見て判断すると、それは事実(Fact)に基づいた判断ではなく、印象(impression)に基づいて判断したのと同じになってしまう。
その結果は、前述のとおりである。
なぜこのように本質が追求されないかは?ひとえにマスコミの偏向報道も一因としてあるが、それ以上に事実(Fact)から本質を追求することを日頃からトレーニングしていない国民性に起因すると思う。
その事実が何を表しているのか?を追求することは、事実(Fact)に基づいて判断を行う上で非常に重要である。
最近では、ソフトウェアが普及したこともあって、システム内で使用される用語の定義や整理を行う機会が増えていった。
だが、事実(Fact)をもとに本質を理解する、といったことはまだまだ行われていない。
事実(Fact)から得られる数値、言葉は、いったい何を表しているのか?を追求し、本質を明らかにしていくことが、情報過多時代に生きる我々のサバイバルスキルの1つではないだろうか。