【コラム】靖国神社における百田有本案vs橋下長島案の論争から垣間見た、ディベート(議論)で守るべきポイント3つ
令和初の参議院選挙を控え、各党が舌鋒を交わしている中、衆議院議員である長島昭久氏提唱の靖国神社分祀論を巡って、作家の百田尚樹氏、ジャーナリストの有本香氏、そして前日本維新の会共同代表の橋下徹氏との間で、Twitter上で活発な議論があった。
しかし、とあ足立康史衆議院議員が論戦に参画したことで、最終的に現日本維新の会代表の松井一郎が百田氏、有本氏に謝罪することになってしまった。
今回は、彼らの論争から見るSNS活用における注意点についてお伝えする。
事の経緯、顛末
詳細は下記ブログをお読みいただきたいが、すごくざっくりまとめると、
- 6/29: 事の発端は、浅田均参議院議員の「靖国神社分祀」に関する講話
- 6/30: 橋下氏、長嶋氏と有本香氏との間で、本問題の背景について歴史認識を中心に論戦
- 6/30: 百田氏が、歴史認識と外交問題を争点に、論戦に参戦
- 7/1: 橋下氏と百田氏の間で、A級戦犯の合祀を中心に論戦
- 7/2: 橋下氏と百田・有本両氏の間で、中韓の配慮を中心に論戦
- 7/3~: 論戦の争点があやふやに。個人攻撃が始まってしまう。
- 7/5: 足立氏の個人攻撃激化と、党代表松井氏の謝罪。終息へ。
といった流れになる。
※主観的にまとめたところがあるので、もし認識が異なる場合はご指摘いただければ幸いである。
参考:靖国分祀・追悼施設設立に関する橋下・足立vs百田・有本のタッグバトル全文まとめ
靖国神社分祀に関する議論の主義主張
(靖国神社分祀に関する)本議論の問題を語る前に、彼らの主義主張を改めて整理してみた。
橋下案
靖国神社を国立施設にする。政教分離の例外とするために憲法改正をする。その上で、現靖国神社が反対しているA級戦犯分祀を実行する。そして天皇、首相に参拝いただく。並行して旧陸軍墓地も国立追悼施設にする。維新もここまで言い切らないから、単純な靖国嫌いの新追悼施設派に見られてしまう。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) June 29, 2019
長島案
靖國神社本来の在り方、分祀の可能性、神社の国有化、憲法の政教分離原則、東京裁判における戦犯概念などについての私の考え方が一応まとまっておりますので、ご一読ください。→ 「私の靖國考」→ https://t.co/cfj61crBNh https://t.co/hhLy8ptHPA
— 長島昭久 (@nagashima21) June 30, 2019
橋下、長島案は、詳細こそ異なるが、案の骨子は「靖国神社の国有化」だ。
一方、百田氏、有本氏の主張は、以下となる。
百田案
現在、日本国首相が靖国神社を参拝できないのは、1985年に朝日新聞が批判し、その直後に中国と韓国が批判と抗議を始めたからだ。それ以前40年間に首相は60回も参拝していたのに中韓は一度も抗議しなかった。
以後、中韓は靖國を外交カードとして使い、朝日新聞らは軍国主義の象徴と報道した。(続く)— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) July 4, 2019
(承前)
この異常なる状況に対し、多くの人たちがメディアの謝った報道を糺し広く世論に訴えてきた。そして中韓の無理難題な非難をはねのけるべきだと、政府や政治家に提言してきた。
その甲斐あって、この20年で靖國を巡る国民の意識は変わってきた。若い人を中心に参拝者の数も増えてきた。(続く) https://t.co/xP6iYtArkE— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) July 4, 2019
(承前)
一方で、中韓の非難を避けるために、A級戦犯(あるいは戦争指導者)を分祀して国立の追悼施設を作れば事態は解決するという意見を述べる人がいる。
中韓の理不尽なクレームによって、英霊を祀る靖国神社の形を変えてしまうということことは、国家としての主体性を失う行為である。(続く)— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) July 4, 2019
有本案
何よりまず日本国内で政治家、一般人の別なく靖国や「戦犯」についての誤解を解き、静かな元通りの祈りの環境を取り戻すことが先決です。橋下さん、なぜだか外国の方々の参拝に拘られますが、それはあちら様が希望し決めることで、こちらからプッシュすることではありませんよね。 https://t.co/64RKZiyLkC
— 有本 香 Kaori Arimoto (@arimoto_kaori) June 30, 2019
百田、有本案は、概ね同じで、「靖国神社に首相や天皇陛下、上皇陛下が参拝可能な世論形成が先」というものだ。
まとめると、以下のようになる。
3日間でポイントは概ね出尽くしました。これ以上、我々が細部を語ることに意義を感じませんので橋下さんがよく仰る民意を問うてはどうでしょう。
◎A級戦犯分祀の国立追悼施設を作る長島さん・橋下さん
◎靖国神社への誤解払拭、理解促進に務める百田さん・有本
何れを支持するか@hashimoto_lo https://t.co/cbl0RLgIZE
— 有本 香 Kaori Arimoto (@arimoto_kaori) July 4, 2019
本議論の問題点
本議論の問題点は、
というところにある。
悪く言えば、
という性質を持つ論戦だった。この手の議論は、会社の会議でもしばしばあることだし、政治の世界ではなおさらだ。
しかしながら、橋下vs百田有本氏が論戦している間は、ある程度争点が絞られていたこともあり、後半に比べて有意義な議論が行われていた。
その理由として、
- お互いの案のメリット(効果)、デメリット(懸念点)が分かりやすく指摘されていた
- 事実に基づく議論が行われていた
といった点だ。
ところが、後半になると議論が白熱しすぎて、個人攻撃になってしまうケースが散見された。
本来であれば、個人攻撃にならざるを得ない時点で、議論としては成立しない。
つまり、個人攻撃をしたほうが負けである。
ディベート(議論)で守るべきポイント3つ
ここでは、靖国神社分祀の是非について語るつもりはない。一方、議論をする上では、守ポイントがいくつかある。
それは、
- 個人攻撃、人格攻撃をしない
- 論点をずらさない
- 論点に関係のない話をしない
といった点だ。
個人攻撃、人格攻撃をしない
今回の論争は、後半白熱した議論が個人攻撃の応酬になってしまったことによって、「靖国神社分祀」に関する主義主張、問題点がすべてうやむやになってしまった。しかも、その発端の一員になったのが、本来議論・論戦が専門であるはずの国会議員にあるわけだから、始末に負えない。
ある意味、国会が正常に機能しなくなった一コマを垣間見た気がする。
個人攻撃、人格攻撃を始めてしまうと、議論が収集できないばかりか、第三者から見た場合の議論の中身が全く見えなくなってしまう。これでは、何のために議論しているのかわからない。正直時間の無駄である。
論点をずらさない
議論が白熱すると、しばしば当事者の間で論点がずれてしまうことがある。
当事者の間でも、そういった声掛けは必要だ。
論点に関係のない話をしない
この要素は非常に難しいのだが、論争中に橋下氏はしばしば大阪府政の実績をもとに、実行の重要性について主張していた。ところが、第三者から見ると、
ということになってしまう。
論点がずれることと同様、議論が白熱するとしばしば論点に関係ない話が出てしまうことがある。
その場合は、論点との因果関係を発信者に説明させ、それが本当に因果関係があるのかをしっかり議論する必要がある。
日本人はもっとディベート(議論)しよう!
今回の騒動で思ったのが、僕を含めて、
という点だ。これは、日本人が和を以て貴しとなす、という精神を2000年近く育んできたことにも由来している。
だが、相手を納得させるディベート(議論)は、外国人と交流する際は必ず必要になるスキルだ。
さらに、よく勘違いされているのは、
という点だ。
そもそも、ディベートの最大の目的は、
に他ならない。
我々は、もっと外国人と交流するためにも、ディベート(議論)を経験し、充実した議論を交わす必要があるだろう。