【コラム】プロジェクトマネジメントにおけるリスクヘッジの基本は、リスクの過大評価にあり!歴史から学ぶリスクヘッジ
新型コロナウィルスの国内への感染拡大が止まらない。
それどころか、初動対応の遅れから感染拡大に歯止めがかからない。
挙句の果てには、世界有数の大都市東京においても感染者がチラホラ出始めた。
今回は、新型コロナウィルスや過去のリスクヘッジ事例から、プロジェクトマネジメントの最適なリスクヘッジついて解説する。
リスクヘッジの第一歩は、リスクの見積もりにあり!
リスクヘッジという言葉は、皆さん周知のとおりだ。言葉の定義は、
おこりうるリスクの程度を予測して、リスクに対応できる体制を取って備えること(SMBC日興証券より)
となっている。
ただし、リスクヘッジという言葉が独り歩きして、リスクを過小評価する傾向がある。
その最たる例が、今回の新型コロナウィルスの日本国内への感染拡大だ。
初動で、中国からの入国拒否や大型船舶の入港拒否を実施していれば、菌保有者が国内に流れ込むのを防ぐことができた。
その結果、今よりも感染者が少ない状態を維持できた可能性がある。
では、どうすれば適切なリスクヘッジができるのか?
過去から現代にいたるまでの事例から学んでいこう。
リスクヘッジの事例
ミッドウェー海戦における日本軍の失態
まず最初に、代表的な例としてミッドウェー海戦をあげたいと思う。
ミッドウェー海戦とは、太平洋の真ん中に位置するミッドウェー島付近で日本とアメリカの間で発生した戦闘だ。
細かいことは割愛するが、日本とアメリカが目指した戦闘の目的は以下の様なものだった。
- 日本:アメリカが保有している空母を撃沈し制空権を確立。日本本土への空襲を防ぐこと(詳しくはドーリットル空襲を参照)
- アメリカ:日本艦隊がハワイ近海に接近するのを阻止すること
当時、意外なことだが、日本海軍のほうが戦力として圧倒的に優勢だった。
しかし、敵基地を攻撃するためには、空母と艦載機による空爆が必要になる。
アメリカよりも国力で劣る日本としては、ミッドウェーで空母を失うことが非常に大きなリスクだったのだ。
しかし、現場指揮官達は、まずその認識が希薄だった。
さらに、航空機によって空母が攻撃されるリスクをほとんど想定していなかったため、偵察行動が疎かになっていた。
そのため、敵空母による攻撃に対するリスクヘッジを怠り、出撃前の兵装変換も仇となって、結果として日本海軍は空母4隻を一度に失ってしまったのである。
この敗因はいくつかあるが、最も大きな原因は、
- リスクの洗い出し不足
- おこりうるリスクの過小評価
であったことは否めない。
インパール作戦における日本軍の失態
次に、『史上最悪の作戦』と言われたインパール作戦について取り上げる。
インパール作戦は、インド北東部のインパール付近で日本とイギリスとの間で発生した戦闘だ。
戦闘の目的はそれぞれ、
- 日本:中国の蒋介石を支援している補給路(援蒋ルート)を遮断すること
- イギリス:援蒋ルートを維持すること
となっていた。
ところが、ミャンマー北部からインド北東部にかけては、ジャングルと険しい山岳地帯が続き、当時車や馬、牛を使って陸路で物資を運ぶのが非常に困難だった。
ところが、現場の情報を満足に理解できていない当時の指揮官、牟田口廉也中将は「ジンギスカン作戦」を立案した。
それは、
- 牛・山羊・羊・水牛に荷物を積んで移動する
- もし食料が途中で必要になった場合、糧食に転用する
というものだった。
しかし、実際は、牛・山羊・羊・水牛が移動が遅く、河を渡れなかったり移動途中で死んでしまった。結果として、食料や医薬品、弾薬の補給ができず、多くの戦病死者を出した(戦死者よりも戦病死者のほうがはるかに多い)
ところが、牟田口廉也中将は、作戦失敗を感じながらも、言い出しっぺのために作戦中止を上司に具申できなかった。その上司も責任問題になることを恐れて、作戦中止の判断を下せず、その結果被害がどんどん拡大していった。
ここでも最も大きな原因は、
- おこりうるリスクの過小評価
- リスクヘッジにならない精神論
- 責任論
であった。
朝鮮戦争におけるアメリカ軍の失態
最後に、朝鮮戦争におけるアメリカ軍の失態を取り上げる。
朝鮮戦争は、北朝鮮が韓国に軍事侵攻したことで発生した戦争だが、アメリカの初動は非常に遅く、楽観的なものだった。
その結果、北朝鮮は釜山周辺まで進行し、アメリカによる仁川上陸が成功するまでの間、アメリカも韓国も身動き取れない状態が続いた。
さらに、中国が義勇軍という形で参戦してくるリスクを過小評価して北朝鮮に反攻したため、結果として戦争そのものが泥仕合になってしまった。
ここでも、
おこりうるリスクの過小評価
が原因で、被害が拡大していったことは否めない。
まともなリスクヘッジしないポジティブシンキングは無謀へとつながる!
今までの事例で共通していたのは、
おこりうるリスクの過小評価
ということだ。
そして、その原因の大半は、
- リスクの洗い出し不足
- 楽観的なポジティブシンキング
に他ならない。
リスクをすべて把握しその対策も考慮した上で前向きに考えることは、ポジティブシンキングして評価してよいと思う。
ところが、ろくにリスクヘッジもせずにただポジティブシンキングするのは、無謀でしかない。
これは、プロジェクトマネジメントすべてに共通して言えることだ。
リスクヘッジの前に、できるだけリスクを洗い出し過大評価する
プロジェクトマネジメントを進める上でリスクヘッジは重要だ。例えば、
- プロジェクトの仕様変更が多発した場合どうするか?
- バグが大量に発生した場合どうするか?
- メンバーのうち数人がインフルエンザになったらどうするか?
- 顧客からの資料共有が著しく遅れた場合どうするか?
あらゆるリスクを想定して、対策を検討したり準備をしておくことがリスクヘッジだ。
そこには昭和の時代にまかり通った様な精神論、根性論は不要である。
まさに、プロジェクトマネジメントの要諦は「備えあれば憂いなし」だと思う。